このたび川田順造先生が文化勲章、石毛直道先生が文化功労者の栄に浴されることになりました。文化人類学にとっては二重のよろこびです。選出理由は川田先生が「西アフリカの無文字社会の調査から『口頭伝承論』という研究領域を開拓した」ことであり、石毛先生の場合は「文化人類学の分野において食文化研究という新たな領域を切り開いた」ことに対するものでした。口頭伝承論にしろ、食文化研究にしろ、いずれも新規の研究領域を開拓したことにあり、フィールドワークを重視する文化人類学として面目躍如たるものがあります。
開拓者精神は、もちろんそれ以外の分野にもおよんでいます。川田先生は「文化の三角測量」という、フランス、アフリカ、日本を定点観測するユニークな方法論を提示しています。他方、石毛先生も環境論・住居論から民間信仰論に至るまで数々のモデルを提唱しています。両先生がこれまでに受賞した賞がそれを如実に表わしています。
両先生はともに愛飲家でもありますが、もう一つ共通点があります。それは文章の達人と言ってもいいほどに、明瞭でわかりやすく、説得力があるだけでなく、人柄がにじみ出るような達意の表現をされることです。教科書などに取り上げられた回数は枚挙に暇がありません。
両先生が今後もますますお元気でご活躍されるとともに、後進のものたちも同様の開拓者精神をもって文化人類学の諸分野を切り開いていければと願っています。
このたびのご受章、誠におめでとうございました。 (2021年10月27日)