理事長徒然草(第11話)
「人類の文明的課題に向き合う」

新年明けましておめでとうございます。

2021(令和3)年は新型コロナウィルス感染症の第3波のなかで幕を開けました。目下、拡大を食い止めるのは人と人との接触をできるだけ減らすことしかないような状態です。ワクチン接種が解決の有力な手段であることは言うまでもありませんが、その展望も五里霧中といった状況です。

コロナ禍は日本に限らず人類の直面する課題です。当財団ウェッブサイトで公開されている友の会オンラインレクチャーの吉田憲司民博館長の言葉を借りれば、「人類の文明は、今、数百年来の大きな転換点を迎えている」といっても過言ではありません。それは近代化と総称される人類の文明が岐路に立っていることを意味しています。それゆえに近代化を克服するためのポスト・モダンとよばれる動向も生じています。しかし、SDGsと称される課題群が象徴するように、単純な解決方法はどこにも存在しません。

そうしたなか千里文化財団は、公益性、持続性をいっそう向上させようとしています。いままで以上に変容する社会情勢に合わせて継続した文化的な貢献がもとめられているからです。当財団は人類の課題を直視し、未来社会を切りひらくために、文化人類学(民族学)を核とする学術の振興事業をとおして、より良き社会の発展に今後ともつとめてゆく所存です。

昨年11月、民博で比較文明学会の第38回大会がひらかれました。初代館長の梅棹忠夫先生がその創設にふかくかかわった学会です。昨年が1970年の大阪万博開催から50周年ということもあり、今回の大会では、千里文化財団も主催者として加わり、万博基金(関西・大阪21世紀協会所轄)から助成もいただいて、3日間にわたるシンポジウムを開催しました。シンポジウムのテーマは「『いのち』をめぐる文明的課題の解決に向けて」であり、2025年の関西・大阪国際博覧会をみすえて国際的な議論が活発に交わされました。『季刊民族学』第175号(2021125日刊行)ではシンポジウムⅠ「生き物をめぐって現代文明を考える」を中心に、全体の総括もふくめ、特集「生き物と現代文明」を組んでいます。

現代文明がおおきな岐路に立っていることを認識し、生きとし生けるものの未来におもいをはせながら、当財団は心をひとつにし、直面するひとつひとつの課題に真摯に取り組んでゆく所存です。本年も、友の会をはじめ関係するみなさま方のご多幸を祈念するとともに、ご支援とご鞭撻をおねがいもうしあげる次第です。(2021113)