108号 2004年 春


大仏の前で合掌する村人たち
文・石澤良昭
写真・大村次郷

特集 クメール文化の至宝

アンコール遺跡 訪れる者すべてに衝撃と感動をあたえる壮大な石造伽藍アンコール・ワット。寺院としての役割を終えた後も、そこに魂が吹きこまれ、あらたな信仰と哲学をよびおこしてきた。文化遺産は過去・現在・未来をつなぐタイム・トンネルである。アンコール遺跡には往時の人びとの祈りや願いがこめられており、そのメッセージがわれわれに届けられる。アンコール遺跡からのメッセージを読み解き、クメール文化の真髄にせまりたい 。

カンボジア社会とアンコール遺跡 文・石澤 良昭/写真・大村 次郷
天空にそびえ建つ石像大伽藍であり、世界に類をみない建築と彫刻・美術の最高峰、アンコール・ワット。たび重なる戦禍をくぐりぬけ、遺跡保護によりふたたびその威容を取り戻したカンボジアの至宝は、時空をこえてクメール人たちのアイデンティティの拠りどころとなっている

アンコール遺跡とアンコール王朝 文・石澤 良昭/写真・大村 次郷
9世紀初頭から約550年間にわたって世界屈指の文明を打ち立てたアンコール王朝。26代におよぶ諸王が展開した王朝の威光と都城建設の軌跡をたどる

274体の廃仏が物語るもの 文・石澤 良昭/写真・ 大村 次郷
2001年に発掘された274体の廃仏。それらはなぜ頭部と胴体が切断され、地中深く埋められたのか。アンコール仏の背後に激しい権力闘争の様相が浮かびあがる

クメール人にとってのアンコール・ワットとは 文・ソム・ヴィソット

アンコール文明の現像をもとめて  文・石澤 良昭/写真・大村 次郷
アンコール朝時代の遺跡や資料と、現在、遺跡のまわりで日々くりひろげられているその末裔たちの生活。これらを重ねあわせ、アンコール文明の現像にせまる

南半球ワイン紀行 第4回
江戸時代に出島で飲んだワイン

森枝 卓士

日本の市場では新参者というイメージがつよい南アフリカのワイン。ところが、それは江戸時代に長崎で飲まれていた。驚くほどの質のよさと低価格。建物も魅力的なワイナリー。ライオンのいる国は知らざるワインの国でもあっ

ニューヨークのカリビアン
ブルックリンのカーニバルとクラウンハイツ暴動

冨田 晃

200万人を超える人びとを集めるニューヨークの「ウエスト・インディアン-アメリカン・デイ・カーニバル」。それは、故郷の島への重いとカリビアンというアイデンティティが交錯する日。ただし、華麗で壮大なこの祭典を知るニューヨーカーはあまりいない。そこには「人種」と「移民」というアメリカ社会の重い壁がある

 

ベトナムの蝶々夫人

文・小松 みゆき 写真・柏原 力

第2次世界大戦末期、ベトナムに進駐した日本兵のなかには、戦後、新ベトナム人としてベトナムの土となることを覚悟した人たちがいた。しかし時は流れ、両国のはざまで日本人はつぎつぎと帰国を余儀なくされた。今年は、その帰国第一陣が日本へ帰国して50年目。現地に残されたベトナムの家族たちの姿を追う

内戦下のアンゴラをゆく
戦争と平和のはざま

池谷 和信

30年来の内戦がいまもつづくアフリカ南部、アンゴラ。狩猟採集民サン、牧畜民ムムエラ、農耕民クワニャマなど、そこらにクラス民族集団は健在なのか。治安の回復、経済の復興、インフラ整備の現状は?フィールドワークを通じて、平和への鍵をさぐる

107号 2004年 新春


モンテビデオのレストラン
森枝卓士

越中富山 サケのぼる川

文・ 出口晶子
写真・ 出口正登

日本の河川で、サケ採捕事業が国家政策としてはじまり20余年が経過した。川をサケ増殖の場と位置づけ、人工ふ化・放流により海のサケ資源の増大をはかる目的ではじまったこの事業は、いまや河川ごとに、ヒトと川のあらたな関係を生みだしている

特集 残響のニッポン

今日、われわれをとりまく風景の大きな部分を占めるのは、自然物ではなく、人工的な構造物である。その意味で、風景はたえず生産され、蓄積され、更新されてゆくものとしてある。そのなかにあって、「残像としての風景」あるいは「風景の痕跡」としかよべないような奇妙な風景と出会うことがある。巨大仏、廃墟、昭和30年代の町並み……。 これら「残像のニッポン」に注目することで、われわれの生きる現代日本社会を逆照射したい

対談 「巨大ぶつ」にさそわれて 宮田 珠己、木下 直之
巨大仏や天守閣といった奇妙なものを抱えこんだ現代日本の風景。風景のなかに存在する、空間的にも時間的にも突出したものは、文化や社会を考えるためのひとつの試金石になるだろう

廃墟と生きる 同時代の遺跡 文・橋爪 紳也/写真・大沼 ショージ
風景は絶えず生産され蓄積され、いっぽうで絶えず消去される。その均衡のなかで「遺跡化した風景」、あるいは「風景の痕跡」が、つねに産みだされている。わたしたちは、いつ廃墟となるかわからない風景と、つねに折りあいをつけながら生活をしていることを自覚するべきであろう

あの日の輝きをもう一度 再現された昭和30年代の町並み 文・近藤 雅樹
国民のおおくが貧しかった。みんなが一生懸命に働き、充実して生きた時代でもあった。そんな時代を懐かしみ、日本各地で昭和30年代の町並みが再現されている。その背景にある現代日本人の心理とは

南半球ワイン紀行 第3回
南欧風ライフスタイルから生まれる地酒

森枝 卓士

南米にありながら、南欧を想わせるウルグアイ。素朴で生活に密着したワインづくりは、地酒そのもの。近年、国内消費の日常ワインだけでなく、輸出を意識し、品質向上にとりくむ潜在的ワイン大国だった

視点2004
今、振り返る始まりの時
9.11ニューヨーク・WEBレポート

冨田 晃

9・11以後の世界を見渡してみよう。アメリカの「テロとの戦争」は、アフガン侵攻、イラク戦争へと発展し、その波紋はさまざまな対立の図式をともなって世界中へひろがっている。そしていま、自衛隊を派兵した日本もまた、その渦中にはいらんとしている。国家と国家の、国家と民族の、そして民族同士、人と人との関係はいかにあるべきなのか。本稿で描かれたニューヨークのマイノリティーたちの姿は、そのありようをさぐるうえで、きわめて示唆的だ。9・11。それはおそらく21世紀をつうじてわれわれが何度も振り返る原点となるだろう

106号 2003年 秋


モスクでコーランを読む老人
写真・大村次郷/文・編集部

特集 イブン・バットゥータの旅
14世紀のイスラーム世界

コロンブスは、まだアメリカ大陸に到達していない。ヴァスコ・ダ・ガマは、まだ喜望峰をこえていない。そんな14世紀という時代に、モロッコからひとりの男が旅にでた。メッカ巡礼、それが旅の目的だった。念願のメッカ巡礼を果たしたのちも、男の旅はつづいた。あるところでは妻をめとり、あるところではスルタンに仕官する。それでも旅はつづいた。旅をささえた男の情熱の源泉とはなにであったのか。旅を可能にしたイスラームのネットワークとはいかなるものであったのか。われわれも旅立とう、もうひとつのグローバリゼーションの世界へ

旅の時空に生きる
イブン・バットゥータの生涯とその時代
 家島 彦一
ヴェネツィア生まれのマルコ・ポーロといえば、モンゴル帝国時代の東西世界を結んだ旅行家としてあまりに有名な人物であるが、彼の旅行から半世紀ほどのちの14世紀前半、西欧を除くユーラシアとアフリカの既知の世界のほぼ全域を踏破した男がいた。ベルベル系のイスラーム教徒イブン・バットゥータである

南半球ワイン紀行2 ニュージーランド篇
新世界に生まれた「旧世界」的ワイン

森枝 卓士

南半球のワインといえば、「新世界ワイン」という言葉でひとくくりにされてしまいがちである。しかし、そんなに単純ではないのだと実感させてくれたのが、ニュージーランドのワインだった……

現代を生きる少数言語 NO.7 韓国語・朝鮮語
チャンポンマルの解放区 在日一世のことば

文・庄司 博史
写真・尼川 匡志

スティールバンド・ムーヴメント

冨田 晃

カリブ海トリニダード島のカーニバル文化のなかから生まれた育ったスティールパン。ドラム缶からつくられた究極の廃物利用アートが、いま、世界で鳴り響く

イメージのなかの政治
視覚化されるヒンドゥー・ナショナリズム

中島 岳志

政治集会、街角のポスター、選挙のたびにばらまかれるグリーティング・カード、キーホルダーやバッジなどのグッズ類。そこには、さまざまな図像があふれている。それらをとおして、ヒンドゥー・ナショナリズム運動の危険性を指摘する

 

105号 2003年 夏


トリニダードのカーニバル
冨田 晃

特集 カリブ海世界、終わりなき変容

カリブ海世界は、コロンブスの「発見」を契機に奴隷制プランテーションの植民地として形成された。複数の大陸からディアスポラ(故郷離散)してきた人びとが混じりあうなかで形成されたその文化は、当初からグローバル性を帯びていた。「混交」から生まれ、つねに変容し、創造の課程にある文化の現在

カーニバル 陶酔と熱狂のトリニダード  文・ 冨田 晃
華やかな仮装パレード〈マス〉、批評的大衆歌謡〈カリプソ〉とその現在形〈ソカ〉、そしてドラム缶から生まれた愉快な楽器〈スティールパン〉。この3要素が、独立し、あるいは絡みあい、壮大なトリニダードのカーニバルを構成している

カリブ海世界 ディアスポラとクレオールの島じま 石塚道子
飛び石状にならぶカリブ海の島じまは、古来南北の大陸の人びとが出会い、ゆるやかに混交しながら移動していく通路の役割を果たしてきた。しかし、15世紀末以降のヨーロッパ人による奴隷制プランテーション植民地化は、この地域の様相を一変させた。生態系の改変、人間と文化の複雑な混交。カリブ海地域は世界経済システムの内部に組み入れられた最初の周辺だった

精霊たちと交わる瞬間 ハイチのヴォドゥ 佐藤 文則/文・荒井 芳廣
カリブ海の黒人共和国ハイチ。奴隷たちがもちこんだアフリカの精霊信仰がこの地で変容を遂げ、ヴォドゥとなった。ミステリアスでカルト的なイメージの向こうで、ハイチの人びとの生活に根づいた民衆信仰の姿を追う

 

「信」のゆくえ 冷戦後キューバの宗教復興 大杉 高司/写真・長嶋 義明
1989年のコメコン体制の崩壊は、キューバ経済に決定的な打撃を与えた。経済の二重化、価値体系の動揺とともに、サンテリーアとよばれる宗教の復活が進む。その背景にある「信」の物質性とは

新連載 南半球ワイン紀行
「美味しい」オーストラリア

森枝 卓士

その地の食文化との関連で、ワインがある。だから、ワインはおもしろい。もともとブドウなどなかった地域、南半球のワインをたずねる。そこであたらしく生まれたワインから、あたらしく生まれる食の文化を考えたいのだ

アジア系アメリカ人運動と博物館
ニューヨークの南北アメリカ華人博物館

文・園田 節子

「洗濯業に歴史なんぞないわ!歴史なんぞ!」。痩せこけて疲れきった男は、かたことの英語で荒々しく叫んだ。洗濯業はまさに、ニューヨークのチャイナタウンにくらす中国移民たちの「辛酸をなめた」無数の経験の具現だった。コミュニティ問題の解決にむけて、収集、展示、そしてエスニック運動にとりくむ博物館活動の報告

104号 2003年 春


琵琶湖の漁師
文・編集部
写真・土村清治

特集 フナズシの民族学

琵琶湖特産のフナズシ。水田稲作の伝来とともに日本にはいってきた淡水魚の保存食が、そのまま現代まで受け継がれた希有な例だ。その起源は、さらに東南アジア大陸部にさかのぼるという。フナズシはたんなる伝統食品ではない。人類の食の営みの奥深さを示唆すると同時に、人間に環境との新たな関係をせまる象徴的な意味合いも帯びはじめた。フナズシの問いかけに耳をすませたい。

琵琶湖 人と魚の小宇宙 文・堀越 昌子/写真・土村 清治
琵琶湖のまわりに人間が住みはじめたのは、数万年前のことだ。縄文時代には。さかんに漁撈活動がおこなわれていたことが知られている。深く長い湖と人間のかかわりを、もういちど見つめ直したい

スシの原型をもとめて 石毛 直道
日本食の代表として世界に知られている「スシ」は、すでに各国で独自の形に変化しつつある。われわれがいま食べているスシも、何度かの変遷を経たものだ。保存食から即席料理へとその性格も変化した「スシ」の歴史をたどる

ナレズシは淡水魚の漬物 文・奥村 彪生/写真・堀越 昌子、日野 光敏
東南アジアの平野部で生まれた淡水魚の保存技術は、稲作とともに海をわたり日本へとつたられた。やがて国内各地でその地の産物をとりいれて、ナレズシの多彩なバリエーションが展開する

魚が島なす湖 文・井戸本 純一/写真・土村 清治
フナズシには、琵琶湖やそこにすむ魚たち、周辺の陸地やそこに人びとが築きあげてきた「共働」の長い歴史が刻まれている。湖の再生は、いちど分断されたこれらの共働をふたたび取りもどせるか否かにかかっている

漁では魚に教えてもらうことばかり 保智 為治

愛しき琵琶湖の魚たち 今森 洋輔
机での作業に区切りがつくと、すぐに筆を置き野外に出掛けていく。春先の漁港に吹き込む風は、水草の青い匂いと魚の匂いが混ざりあって独特の香りがする。それは琵琶湖特有の匂いだ。琵琶湖はきょうも青く美しい。けれども…

湖の幸を食す 文・堀越 昌子/写真・土村 清治
人びとの琵琶湖と湖魚への思い入れは深く、湖魚料理の種類もおおい。滋賀県は琵琶湖のおかげで、日本でもっとも淡水魚利用が発達した地域といえる

フナズシ 魚とコメの出会いが生んだスローフード 文・堀越 昌子/写真・土村 清治
子どものころから、お腹をこわしたり風邪をひいたとき、また正月や祭りの日にも食べてきたフナズシは、滋賀の人びとにとってふるさとの特別な味である。しかも、頭から尾っぽまで丸ごと食べられ、消化しやすく、整腸作用と高い抗菌力をもつ完全食品でもある

淡海の国は今日の御厨 文・奥村 彪生/写真・土村 清治、堀越 昌子
近江地方は古くから食の宝庫であった。琵琶湖や川で獲れる淡水魚のみならず、平野部や山里からも四季折々に、ゆたかな実りと収穫がよろこびをもたらした。鯖街道を運ばれる海産物も加わり、それらは京の都で洗練された味覚へと生まれかわる

スシは寿司を越え、SUSHIとなった 森枝 卓士
オーストラリアの片田舎、南アフリカのケープタウン、チリのサンチャゴにむかう飛行機のなか…、いまや世界のいたるところで出会うスシ。しかしそれはすでに寿司ではなく、土地土地で変容をとげた、インターナショナルな食べものとしてのSUSHIだった

第三回世界水フォーラムによせて
水と京文化

文・熊倉 功夫/写真・中田 昭

京都の名物といえば水。第一は鴨川、桂川、宇治川などで知られる川の水。第二は東山の山すそのいたるところから湧きでる湧水。これら京の名水からゆたかな京文化が生まれ、今日まで脈々とはぐぐまれてきた