167号 2019年 新春

特集 二つの顔をもつ山――世界遺産・富士山

有史以来頻繁に噴火し、江戸中期の宝永噴火を最後に現在は休止しているものの依然活火山である富士山は、二つの顔をもっている。
火の神と結びつく火山の顔と、水の神と結びつき火を鎮め人を清める水の源としての顔、これらはまた男性神と女性神に対応づけられ、近くから見れば荒々しい山肌や畏れを、
遠くから見ると憧れを抱かせる円錐形の美しい顔をもつ。
 富士山が世界遺産に登録された際の要件は、「信仰の対象」と「芸術の源泉」であるが、時代によってその一方が強調され、その後、もう一方へと交替してきた歴史がある。
 縁起物「一富士二鷹三茄子」や、フジという読みの当て字も、福慈、不二(二つとない)、不死、不尽などめでたいものである。また、江戸時代の絵のモティーフである富士と龍も「不時、すなわち時ならざる不幸を断つ」という語呂合わせとして、吉兆の印としても捉えられてきた。
 新年にあたり、おめでたい富士山の両義性を踏まえつつ、富士山のもつさまざまな顔に
ついて考えたい

2019(平成31)年1月25日発行 
発行所:一般財団法人 千里文化財団

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