133号 2010年 夏

機関誌
木造船ダウ。アラブ首長国連邦バーレーン沖合にて
大村 次郷

特集 鄭和の足跡をたどる
海からみたアジア

写真提供・大村 次郷

われわれが暮らす「アジア」は、多種多様な宗教、民族が混在し、その全体の基層をなすものをみつけだすのは容易ではない。しかし、この判断は国家を単位とした「陸」への偏った視点に起因するのではなかろうか。近代以前のアジアにおける海上ネットワークを見直してみることは、グローバル化がもたらした現代のネットワークを相対化するためにも有意義かも知れない。 本特集では、ムスリムを祖先にもち、東南アジア、インドからアラビア半島まで航海した中国明代の武将・鄭和を物語の中心に据え、彼が訪れた港市や船舶の今昔に注目する。 鄭和の航跡を現代の視点からたどることで、これまでアジアとしてとらえていた以上のものが、アジアのネットワークとしてみえてくるにちがいない。

序章 海からアジアをみる 陸から海への視座転換
文・濱下 武志/写真・大村 次郷

I章 鄭和の大航海と海域世界

鄭和とその時代
 文・濱下 武志/写真・大村 次郷

鄭和の航海術と琉球への影響 「航海針法」の伝播をめぐって
真栄平 房昭
媽祖 航海信仰からみたアジア 藤田 明良

天理大学付属天理図書館所蔵 太上説天妃救苦霊験経
藤田 明良

II章 港湾都市の過去と現在

海にむかった華南の人びと
文・瀬川 昌久/写真・大村 次郷

社会主義・中国のふたつの鄭和像 信太 謙三

東南アジアの交易をめぐる海民社会のダイナミクス
長津 一史

インドネシア華人の鄭和信仰 貞好 康志

スリランカ、海村の人びと 高桑 史子

宗教対立と鄭和碑文 杉本 良男

アラビア海を中心とする海域ネットワーク
インド洋交易の歴史に隠されたオマーン移民
大川 真由子

終章 鄭和から続く広州のムスリムコミュニティ
文・濱下 武志/写真・大村 次郷

ブルターニュに生きるケルト文化

文・原 聖
写真・武部 好伸

海峡をはさんでイギリスとむきあうフランス北西部。 四世紀、ブリタニア(現在のイギリス)を追われたブリトン人(ケルト系)たちは、この地に安住の地を求めた。フランスではこの地域をブルターニュとよび、彼らの故郷ブリタニアをグランド・ブルターニュ(英語ではグレート・ブリテン)とよび区別した。 その後、フランク王国(ゲルマン系)による支配などを受けながらも、他の地域とは異なるケルト系文化を継承してきた。

しかし、近代から現代にかけての中央集権の強化、学校教育の普及は、彼らから独自の文化を少しずつ消し去ることになり、現在では、ブレイス(ブルトン)語が話される機会は極めて少なくなった。その一方で、街の看板にブレイス語を使用するなど、保存・復興の意識も高まりつつある。 フランス・ブルターニュに焦点をあて、歴史的背景をおさえつつ、現代に生きるケルト系の人びとを見つめ直すことにより、国家・地域統合と少数派言語、文化の共存のあり方について考えてみたい。

再見細見世界情勢16
特別企画 大国に翻弄される中東
イラン・イラクとアフガニスタン

イランとイラク、そしてアフガニスタンが位置する中東地域の情勢は、現在においても緊迫した状態が続いている。これらの国々の歴史を振り返ってみると、国家の成立から現在にいたるまで、アメリカやソ連といった大国をはじめとする諸国の干渉を受けつづけてきている。国家や国内外の勢力の思惑によって、現在の状況がある。そのターニングポイントのひとつである、イラン・イラク戦争と、ソ連によるアフガニスタン侵攻を振り返る。
イラン・イラク戦争とスンナ派・シーア派の対立 文・富田 健次
歴史の教訓 アフガニスタンの悲劇が語りかけるもの 文・金 成浩

国立民族学博物館ミュージアム・ショップ通信