特集 植民地時代アンデスの教会美術
岡田 裕成、齋藤 晃(責任編集)
アンデスの文化といえば、ティワナコやインカに代表される古代文明、その壮大な遺跡を想像する人がおおいだろう。しかし、今日のアンデスの暮らしの風景のなかで、より大きな存在感をもつのは、篤い信仰を集めるキリスト教の聖堂である。山深い谷あいの集落にも、標高4000メートルの高原の果ての村にも、聖堂はある。16世紀に突然やってきたスペイン人によって征服されて以来、アンデスの文化は大きく変容した。キリスト教聖堂は、その目にみえる象徴だ。広大なアンデスの地に残る聖堂のおおくは、厳しい高地の風土のなか、ひっそりと集落に寄り添っている。そこを飾る装飾も、概して素朴で民衆的である。長らく研究者の立ち入りさえ稀であったアンデスの聖堂の、ユニークな装飾美術をここに紹介する。
標高4000メートルのキリスト教聖堂
大橋哲郎、北野 謙(写真)/岡田 裕成(写真・文)
アンデスの聖堂装飾と植民知的イマジネーション 岡田 裕成
アンデス高地の各地に残るゆたかなキリスト教美術の遺産の数々。それらは魂とイマジネーションの領域において、強大な他者の存在と対峙せざるをえなかった植民地の複雑な状況のなかで花開いたものだった
山に住む人魚たち 加藤 薫
西欧でも先住民社会でも、人間にとってネガティブな存在となっていた人魚が、17世紀のアンデスであらたな意味と棲息場所を獲得した。標高3000~4000メートル級の高地に大量かつ多様な人魚像が生みだされた、その背後にあったものは何か
海を渡ったバルゲーニョ 齋藤 晃
ボリビアの博物館の片隅にひっそりと座するいにしえの書箪笥バルゲーニョに、スペインと新大陸の植民地が交差し、絡み合った歴史の軌道をみる
聖体祭 クスコの宗教的祝祭 ホルヘ・A・フローレス・オチョア(文)/岡田 裕成(翻訳) 都市においても、村落においても、アンデスではカトリックの祝祭が生活の重要な部分をなしたし、それはいまも変わらない。クスコの聖体祭は、そのはじまりからすでにバロックの精神を宿すものだった。バロックの芸術は、信仰を礼賛し教養を擁護する手段としての働きの場を、アンデスの地に見出したのである
危機に瀕する教会美術 齋藤 晃
装飾がはぎとられた祭壇、からっぽの壁龕、額絵がはがされた壁の跡。ボリビアの教会美術はいま、深刻な東南の被害にさらされている。その現状を報告するとともに、保全に向けての試みを紹介する
聖堂壁画の修復と保全
エドガル・ラミロ・メンディエタ、ファン・カルロス・ヘミオ・サリーナス(文)/岡田 裕成(翻訳)
水の文化、その多様性
水文化の多様性を抜きに、水問題の解決はありえない
阿部 健一
人が生きていく上で、欠かせない水。人は、生活のいたるところで、水とかかわり、そのかかわり方は、民族民族によりさまざまである。それを、水の文化と読んでみよう。歴史と地域が作り上げた、水を軸とした文化。水の文化は多様である。国際社会が取り組むべき共通の課題としての水問題を議論し、行動に移すための会議「第3回水フォーラム」が本年3月、京都・大阪・滋賀を会場に開催される。
創刊25周年記念企画・四半世紀ののちに4
国家を生きる狩猟採集民
オーストラリア・アボリジニの生活戦略
小山 修三
一連のプロセスを考えて、実行し、成功してからでないと食糧にありつけない。これが狩猟採集という生活スタイルの本質であろう。伝統と近代化の融合によって成立している現代の狩猟採集社会を、オーストラリア・アボリジニにみる